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福岡高等裁判所 昭和26年(ナ)25号 判決

原告 中野正己 外九名

被告 長崎県選挙管理委員会

被告補助参加人 長崎市選挙管理委員会

一、主  文

一、昭和二十六年四月二十三日執行の長崎市議会議員選挙の効力に関する訴願について、同年九月十日被告のなした訴願棄却の裁決は、同選挙の第六及び第四開票区に関する限り、これを取消す。

二、右第六及び第四開票区の選挙を無効とする。

三、原告らのその余の請求を棄却する。

四、訴訟費用中補助参加により生じた部分はそれぞれの補助参加人の負担とし、その余は被告の負担とする。

二、事  実

原告らは「昭和二十六年四月二十三日執行の長崎市議会議員選挙の効力に関する訴願について、同年九月十日被告のなした訴願棄却の裁決はこれを取消す。昭和二十六年四月二十三日執行の長崎市議会議員の選挙を無効とする。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告代表者は「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする」との判決を求めた。

原告らの事実上の陳述

第一、被告補助参加人長崎市選挙管理委員会(以下市選管と称する)は昭和二十六年四月二十三日執行の長崎市議会議員選挙の当選人を同月二十五日告示した。右選挙に立候補した原告らは市選管に対し右選挙の効力又は当選の効力に関する異議の申立をなしたところ、市選管は同年五月二十八日附で、異議の申立を棄却する決定をなし、同月三十一日右決定を原告らに交付したので、同年六月二十日被告に対し訴願をなし、右選挙又は当選を無効とする裁決を求めたが、同年九月十日訴願棄却の裁決があり、同月二十一日その裁決の交付を受けた。

第二、選挙管理委員会は、選挙が公正且つ適正に行われることを確保し、投票の方法、選挙の規定違反とならない注意及びその他選挙に関し特に必要な事項を選挙人に周知徹底させ、選挙の管理執行に万遺憾なきを期する法律上の責務がある。然るに被告委員会は、昭和二十六年四月二十三日執行の長崎市議会議員選挙において、この責務に違背し、善良なる管理者の注意義務を怠つたため、同選挙は、次に陳述するように、選挙の管理執行の規定に違反し、しかも選挙の結果に異動を及ぼす虞ある無効の選挙となるに至つた。

(1)(一)市選管は、昭和二十六年四月三日告示第十二号をもつて、同月二十三日長崎市長及び長崎市議会議員の同時選挙を行う旨告示しその順序は市長選挙の投票を先になし、次に議員選挙の投票をなすことと定め、その選挙を執行した。そこで、市選管はこの順序を間違えないよう選挙人に周知させ、特に入場券の裏面には、市長選挙の投票をしてから、次に議員選挙の投票をなす旨を印刷し、その旨一般選挙人に周知徹底させたのである。

しかるに第八投票区(投票所は長崎市立北大浦小学校)及び第十八投票区(投票所は長崎市立上長崎小学校木場分教場)の各投票管理者は、他の三十一ケ所の投票区の投票所(投票区従つて投票所は総数三十三ケ所である)と異り、市選管の定めた投票の順序に違背し、議員選挙の投票を先に行い、次に市長選挙の投票を行う設備をなして、その順序により投票をなさしめた。このことを了知しない多数の選挙人は、議員選挙の投票用紙に市長候補者の氏名を、また市長選挙の投票用紙に議員候補者の氏名を書いて投票を行つたのである。

第八投票所の投票管理者は投票当日の午前十一時半頃選挙人中村一良外数名の注意により初めて、順序の過誤に気附き狼狽しだしたのであるが、時既に遅く、数多の選挙人が右のように、誤つて投票をなした後であつた。

投票管理者は、投票所の場所的都合によつて、投票所の構造設備としての入口、投票記載台、投票箱、出口などの位置その他について、時宜に適する措置をとることは許されるとしても、市選管が一旦定めて一般に周知徹底させた選挙の投票順序を変更する権限はないのであるから、右のごとく投票管理者が既に定められた選挙の管理執行の規定に違反して執行した右第八及び第十八投票区の選挙は違法且つ無効である。

(二)第八、第十八投票所以外の三十一ケ所の投票所においても、市長選挙投票所と議員選挙投票所には、投票箱が一個あるだけで市長及び議員の各投票場所の記載台の中、中央にある記載台の奥一ケ所に、それぞれ小さな紙片に「市長選挙所」又は「議員選挙所」と申訳的に記載した一枚の貼紙がしてあつただけであつたから、同記載台で記載する人でも容易に気附かぬ位で、いわんや右以外の記載台で記載する選挙人にとつては、市長と議員との投票所の区別すら判然識別し得なかつたのである。これ亦多数の選挙人が市長選挙と議員選挙との投票を互に取違えてなした主要な原因をなすものである。

右(一)(二)のような事実がなく、選挙法規の命ずる善良な管理者の注意をもつて、選挙が公明適正に執行されたとすれば、右(一)(二)にあげた事由のために無効となつた数多の投票は、当然有効な投票となつた筋合であるから、右の選挙執行の違法は、明らかに選挙の結果に異動を及ぼす虞があるものというべきである。

(2)、本件選挙の各投票所の投票録による投票者総数は、一一三、四一一票で、市選挙会の確認した選挙録による開票総数は、一一三、八三九票であるから、後者が前者よりも四二八票多い。更にこれを各開票所の開票録による開票実数と投票者数とを比較すると、開票実数が七三八票多い。即ち、

第一開票所 投票者総数 一九、〇〇二

内訳

第一投票所  一、四五九。 第二投票所 一、九四一。

第三投票所  一、三三五。 第四投票所 一、二五六。

第五投票所  三、八二八。 第六投票所 二、七五五。

第一三投票所 六、四二八。

開票録による総数 一八、九一〇票

内訳

有効票 一八、一八〇票 無効票 七三〇票

差引  九二票不足

第二開票所 投票者総数 一八、〇六二。

内訳

第一一投票所 三、五六一。 第一二投票所 五、六八三。

第一四投票所 八、八一八。

開票総数 一八、一九九票(開票録には一八、二四二票とあるが、合計の違算があるから上記の通り訂正する。)

内訳

有効票 一七、五七八票 無効票 六二一票

差引  一三七票増加

第三開票所 投票者総数 二〇、九五六。

第一五投票所 六、四七五。 第二〇投票所 二、三九六。

第二一投票所 三、八四四。 第二二投票所 三、五八三。

第二三投票所   九三一。 第二四投票所 二、三一一。

第二五投票所 一、四一六。

開票録による総数 二〇、八九七票

内訳

有効票 二〇、〇八三票 無効票 八一四票

差引  五九票不足

第四開票所 投票者総数 一六、八一八。

内訳

第一七投票所 三、五六三。 第一八投票所   三二七。

第一九投票所 四、一八四。 第二六投票所 四、三一九。

第二七投票所 四、四二五。

開票録による総数 一六、八九八票。

内訳

有効票 一六、三六七票 無効票 五三一票

(但し、開票録の無効票四七一票は誤算で、無効票の実数は五三一票である。)

差引  八〇票増加

第五開票所 投票者総数 一九、七五三。

内訳

第二八投票所 五、三六八。 第二九投票所 二、一八四。

第三〇投票所 三、五八二。 第三一投票所 二、二五四。

第三二投票所 一、七五七。 第三三投票所 一、〇二八。

但し不在者投票一八票の合算洩れを加算する。

第一六投票所 三、五八〇。

開票録による総数 二〇、二〇五票

内訳

有効票 一九、〇二三票 無効票 一、一七九票

差引  四五二票増加

但し有効票と無効票との合計二〇、二〇二票に、市選管書記山田福男が、第五開票所の未開票三票を、秘かに無効票の中に入れて隠匿した数を加算した。又開票録記載の無効票内訳中の「候補者でない者の氏名を記載したもの」の最初の数は、一、一五五票とあり、これによると、無効票総数は一、二五九票で、ついで訂正された一、〇二六票によると、合計一、一三〇票となるが、選挙会で確認された一、一七九票が正確である。当時四五三票の幽霊増加票があるとして、問題がやかましくなつたので、この開票区における無効票一、一七九票から四六五票を堕胎(減少)し、実数を七一四票と変更し、投票者総数と開票総数とを一致させたのである。無効票だけに手をつけ、有効票に手を触れなかつたのは、当選人の告示後で、その当落の直接影響あるを怖れたからである。

第六開票所 投票者総数 一八、八二〇。

内訳

第七投票所 四、四八九。 第八投票所  五、五五四。

第九投票所 五、五七八。 第一〇投票所 三、一九九。

開票録による総数 一八、八八八票

内訳

有効票 一八、一八六票 無効票 七〇二票

差引  六八票増加

右各投票者総数と開票総数を比較すれば、第二開票所において一三八票(一三七票の誤りであらう)、第四開票所において八〇票、第五開票所において四五二票、第六開票所において六八票計七三八票(七三七票の誤りであらう)だけ前者よりも後者が多く、この票数は選挙の管理執行の適正公明ならざるに出でたる不正投票と認むるの外なく、しかして、この不正投票が候補者中の何人のために投票されたか不明であつて、選挙の結果に異動を及ぼす虞あることは明らかである。

(3)市選管は不在者投票に関する法定の帳簿を作成せず、又所定の証明書なくして投票をなさしめている。右は不在投票に関する選挙の規定に違反し、しかも選挙の結果に異動を及ぼす虞ある無効の選挙というべきである。

(4)本件選挙の各開票所では、所定の開票立会人なく、又法定数を欠く開票立会人によつて開票せられたため、開票録の誤記、誤算を生じ、選挙の公正を害し、前記(2)に述べたような幽霊票の疑惑根源ともなつた。即ち、開票に関する規定に違反し、延いて選挙の結果に異動を及ぼす虞ある場合に該当すること多言を要しない。

(5)(一)本件選挙において、公職選挙法第四十四条、同法施行令第三十五条、同令第五十三条等の規定する選挙人名簿又はその抄本との対照を経て投票した総数は一一〇、九〇五名である。しかるにこれに対し各投票所において、投票用紙を交付した数は(括弧内は甲第七六の一、二によるもの、交付せざる数につき亦同じ)、次の数字を示す。

第一開票所

名簿対照数 一八、五四〇。 用紙交付数 一八、六四九。

超過交付数    一〇九。

交付せざる数 (三〇)

第二開票所

名簿対照数 一七、八五三。 用紙交付数 一七、八九〇。

超過交付数     三七。(四三)

交付せざる数        (六)

第三開票所

名簿対照数 二〇、六一〇。 用紙交付数 二〇、六五七。

超過交付数     四七。(五八)

交付せざる数        (二)

第四開票所

名簿対照数 一六、三九七。(一六、三九八) 用紙交付数 一六、四〇四。

超過交付数      七。(三一)

交付せざる数 (二四)

第五開票所

名簿対照数 一九、一八六。 用紙交付数 一九、一五三。

超過交付数 (一三)

交付せざる数 三三。(四六)

第六開票所

名簿対照数 一八、三一九。 用紙交付数 一八、五七五。

超過交付数    二五六。(二六三)

交付せざる数    (七)

以上合計超過交付数四五六。 交付しない数三三である。

(甲第七六号証の一、二によるも、名簿対照数以上に投票用紙を交付しているし、又不正にこれを交付しないでいる)。

名簿との対照は選挙人が投票をなすについての、法定の絶対的前提要件であるから、その対照照合数が即ち投票者の基本数である。従つて右の四五六票は投票管理者又は投票係員が一人又は数人に対し二票以上の投票用紙を交付したものと認むるの外なく、又右三三枚の投票用紙は正当選挙人に交付しないまま選挙が執行されたのである。若し右のような選挙の管理執行に関する規定の違背がなく、選挙が公正適切になされ、右四五六票の不正交付がなく、三三枚が正当に交付されたとすれば、選挙の結果に異動を及ぼす虞があるから、本件選挙は無効である。

(二)投票録による投票者総数は前記(2)記載のように一一三、四一一票であるから、これと前記照合総数一一〇、九〇五票と比較すれば、差引二、五〇六票が名簿照合総数よりも多く投票されていることになる。そして右二、五〇六票の各開票所別の内訳は、

第一開票所 四六二票。 第二開票所 二〇九票。

第三開票所 三四六票。 第四開票所 四二一票。

第五開票所 五六七票。 第六開票所 五〇一票。

であつて、この二、五〇六票は一人一票の原則に違反し、不正不法の手段によつてなされた投票と認むるの外なく、しかもこの不正増加票は候補者の何人のために投票されたかは不明であるから、選挙の結果に異動を及ぼす虞あるものというべきである。

(三)更に右名簿照会総数と開票録による前示開票総数一一三、八三九票との差数二、九三四票は不正不法の手段によつてなされたもので、

選挙の管理執行の適切公正ならざるに出でたものと認むる外なく、又各開票所別の開票録に基く開票実数一一三、九九七票(原告は一一三、九九六票と計算しているが誤算である)と比較すれば、三、〇九二票(原告が三、〇九一と主張するのは誤算である)の不正増加票があることとなるが、いずれにしてもこの不正増加票は選挙の管理執行の公正適切ならざるに基因した選挙の規定に違反する投票であつて、選挙の結果に異動を及ぼす虞があるから、本件選挙は違法無効の選挙というべきである。

従つて、本件選挙は以上いずれの点からしても無効であるから、被告のなした裁決を取消し、本件選挙を無効とする判決を求める。

被告及び被告補助参加人らの事実上の陳述

第一、原告ら主張の第一の事実は認める。

第二、一、原告ら主張の第二の(1)に対して。

市選管が原告ら主張の日に告示第十二号をもつて、昭和二十六年四月二十三日長崎市長及び同市議会議員の同時選挙を行う旨告示したこと、市長選挙の投票を先にし、次に議員選挙の投票をなすことと定め、入場券の裏面に主張のようなことを印刷記載したこと、第八及び第十八投票所においては、右の投票順序を逆にして投票を了したこと、第八投票所においては選挙人の注意により当日午前十時頃右事実に気附いたことは争わない。しかし、現行法上同時選挙における投票の順序については、規定を欠き、当該選挙を管理する選挙管理委員会の判断によつて、適宜順序を定めて執行すれば足るとせられている。市選管が入場券の裏面に投票順序の先後を印刷記載したのは、唯選挙事務の統一と投票所の混乱を防止しようとする措置に過ぎない。第八投票所においては、右の如く投票の先後を誤つて設備していることに気附いたけれども、当時投票のため相当数の入場者がいたため、投票の途中これを変更するときは、却つて投票所の混乱を生ぜしめる虞があつたので、市選管の指示に従い、そのまま投票を行い、第十八投票所においては、投票管理者も投票者も、投票順序を異にする同投票所の設備に気附かず又両投票所とも平穏裡に投票を終了したのである。しかも、市長選挙投票用紙と議員選挙投票用紙とは、色別けして印刷してあるばかりでなく、投票するにあたつては、投票者は先ず市議選挙の受附係に入場券を差出し選挙人名簿と対照の上選挙人たることの確認を経て、入場券と引換に、議員選挙の投票用紙の交付を受け、議員投票の記載台で記載の上、投票箱に入れ、次に市長選挙の受附係に到り、氏名点検の上入場券(これは連繋式となつていて、市議会議員の分は既に切り取られている)と引換に投票用紙の交付を受け、市長投票記載台で記載の上投票箱に入れて、退出することとなつており、しかも、投票用紙交付係も議員と市長のそれは、机を異にし、且つ投票用紙交付係において用紙を交付する際、議員又は市長の投票用紙であることを説明していたし、殊に前陳順序の誤りを発見した後は、市選管の注意によつて、前にも増して明瞭に右の点を説明して投票用紙を交付することにし、又市長及び市議選挙の投票記載場所も一目それと判るよう明瞭に掲示し、その上投票者の歩行する板張上には、白墨で書いた矢印によりそれぞれの投票記載台に至る進路を指示し、投票に過誤なきを期した。従つて、第八、第十八投票所において、市議と市長の投票を間違える筈もなく殊に第十八投票所においては、投票管理者も投票者も、他の投票所と投票順序の変つていることに気附かないまま平穏に投票を終了したのである。加之開票の結果によると、全部で六個の開票所のうち、第十八投票所の属する第四開票所の無効投票率は僅かに〇、〇三一で第一位の有効投票率を示し、第八投票所の属する第六開票所の無効投票率は〇、〇三七で、第四位の有効投票率を示しているから、市長と市議の投票順序を誤つた設備をなしたがために特に無効投票が増加したものとは解されない。即ち、右の過誤は選挙の結果に何等の異動を及ぼさなかつたといわねばならない。なお、本件三十三個の投票所における設備が不完全で、一般投票者が市長と市議の投票場所を識別し得ない程であつたとの主張事実は否認する。

二、原告ら主張の第二の(2)について。

原告は投票録による投票者総数は一一三、四一一票(但し投票録による投票者総数は、一一三、三九三票であるから、これに第三十三投票区の不在者投票一八票を加算した数字と認められる)であつて、選挙録による開票総数は一一三、八三九票であるから、四二八票増加しているとて、各投票録、開票録記載の数を挙示説明している。しかし投票録の記載数、及び選挙録の無効投票数で不合理として是正すべきものを是正すれば、

投票者総数(厳密には投票用紙交付数)は、一一三、六〇九人で、開票総数は、一一三、四〇八票であり、後者が二〇一票少いが、これは入場した投票者のうち、投票しないで退出したものと推測するのが相当である。以下各開票所毎に所属の各投票所について是正された数字を示して説明すると、

(一)第一開票所

投票者総数  一九、〇〇三。 開票総数 一八、八九七票

で、開票数が一〇六票少い。各投票所毎の投票数内訳は、

第一投票所  一、四五九票 第二投票所 一、九四二票

第三投票所  一、三三五票 第四投票所 一、二五七票

第五投票所  三、八二七票 第六投票所 二、七五五票

第十三投票所 六、四二八票 である。

原告の主張と異なる点を指摘すれば、

イ、第二投票所は、不在者投票数 四五。投票用紙交付数 一、八九七(三浦証人提出の表参照)で、合計一、九四二となり、甲第二〇号証の第二投票区の精算書の記載とも一致する。

ロ、第四投票所は、不在者投票九。投票用紙交付数一、二四八(同上の表参照)で、合計一、二五七となり、甲第二〇号証の第四投票区の精算書の使用高一、二四八には不在者投票数、九を含まないから、右に九を加算すれば、一、二五七となる。

ハ、第五投票所は、不在者投票 六九。投票用紙交付数三、七五八(同上の表参照)で、合計三、八二七となる。(甲第二〇号証の第五投票区精算書には使用残高の記載がないから対照できない)。

ニ、第一開票所の開票総数は、一八、八九七票と認むるのが相当である。同所の無効票は計七三〇であり、その有効票は三浦証人提出の表及び甲第五号証の記載中、選挙会が実数を調査しその結果を鉛筆で記載した数によると、一八、一六七票で、票数を合算すれば一八、八九七票となる。

(二)第二開票所

投票者総数 一八、二〇二。 開票総数 一八、一六六票

で、開票数が三六票少い。各投票所毎の投票数内訳は、

第一一投票所 三、五六一票(原告主張の通りである)。

第一二投票所 五、六四二票 第一四投票所 八、九九九票

である。

原告の主張と異なる点を指摘すれば、

イ、第一二投票所は、不在者投票九五。投票用紙交付数五、五四七(三浦証人提出の表参照)で、計五、六四二となる。甲第二〇号証の第一二投票区の精算書には、残高五一二枚と記載してあるけれども、三浦証人提出の表によると市選管の調査した数も、実数も残高五五三枚であり、これを右精算書の受高六、一九五から差引くと、五、六四二となるから、投票数は五、六四二票と見るのが相当である。

ロ、第一四投票所は、不在者投票一八一。投票用紙交付数八、八一八(同上の表参照)で、合計八、九九九となる。甲第二〇号証の第一四投票区の精算書には使用高八、八一八と記載してあるが、この中には不在者投票数の一八一を加算してない。これを加算すれば、右の八、九九九となるのである。

ハ、第二開票所の開票総数一八、一六六票のうち、有効投票は一七、五七六(同上の表参照)で、甲第七号証の記載中、選挙会が実数を調査し、その結果を鉛筆で記載した数とも一致する。無効投票は五九〇である(同上の表参照)。

(三)第三開票所

投票者総数 二〇、九五六。 開票総数 二〇、九四四票

で、開票数が一二票少い。投票者総数及び各投票所別の投票者数については、原告の主張を争わないが、開票数は二〇、九四四票で、内有効投票二〇、一二五票(同上の表参照)で、この票数は甲第九号証の記載中、選挙会が実数を調査し、その結果を鉛筆で記載した数とも一致する。無効投票は八一九票と認むるのが相当である(同上の表参照)。

(四)第四開票所

投票者総数 一六、七八三。 開票総数一六、七七五票

で開票数が八票少い。

各投票所別による投票者数の内訳は、第一八、第一九投票所の数は原告主張のように、それぞれ三二七。四、一八四であるが、

第一七投票所 三、五五九。 第二六投票所 四、三〇五。 第二七投票所 四、四〇八。

である。

原告の主張と異なる点を指摘すれば、

イ、第一七投票所は、不在者投票数四三。投票用紙交付数三、五一六(同上表参照)で、合計三、五五九となる。甲第二〇号証の第一七投票区の精算書には使用高三、五一七と記載してあるが、この中には書損の一枚を加算してあり、残高実数(同上の表参照)を、同表により明らかな受高六、七〇〇枚から差引けば三、五一六となり、これに不在者投票数四三を加算すると三、五九九となる。

ロ、第二六投票所は、不在者投票数五八。投票用紙交付数四、二四七(同上の表参照)で計四、三〇五となる。

ハ、第二七投票所は、不在者投票数二〇一。投票用紙交付数四、二〇七(同上の表参照)で、計四、四〇八となる。

ニ、第四開票所における有効投票数は一六、二四四票と認むるのが相当であり(同上の表及び甲第一一号証中、選挙会が実数を調査し、その結果を鉛筆で記載した数は、一六、二四四である)、これに原告主張の無効票五三一を加算すると、開票数は、一六、七七五となる。

(五)第五開票所

投票者総数 一九、七四八。 開票総数 一九、七三七。

で、開票数が一一票少い。各投票所別の投票者数で、原告の主張するところと異なるのは、第二八、第二九の投票所であるから、その点を説明すると、

イ、第二八投票所は、不在者投票三九二。投票用紙交付数四、九七七(同上の表参照)で、計五、三六九となる。甲第二〇号証の第二八投票区の精算書には不在者投票数三九二を、三九一と誤記しているので、一票を加算すれば使用高は、五、三六九となる。

ロ、第二九投票所は、不在者投票 三四。投票用紙交付数二、一四四(同上の表参照)で、計二、一七八となる。

甲第二〇号証の第二九投票区精算書には、使用高二、一八四と記載してあるが、右は誤りで、残高実数(同上の表)を、右精算書の受高二、四三四から差引くと、二、一七八となり、前示の数と一致する。

ハ、第五開票所における有効投票数は、原告主張の通り一九、〇二三票であり、これに無効投票数七一四票(同上の表参照)を加算すると、開票総数は、一九、七三七となる。

(六)第六開票所

投票者総数 一八、九一七。 開票総数 一八、八八九。

で、開票数が二八票少い。第七、第八、第九投票所の投票者数は、原告主張の通りであり、異なるのは第一〇投票所の投票者数である。

イ、第一〇投票所は、不在者投票数四一。投票用紙交付数二、二五五票(甲第二〇号証の第一〇投票区の精算書参照)で、計三、二九六が相当である。

ロ、第六開票所における開票総数は、一八、八八九票と認むるのが相当である。甲第十五号証中、選挙会が実数を調査し、その結果を鉛筆で記載した有効投票数は、一八、一八七であるからこれに原告主張の無効投票数七〇二を加算すると、一八、八八九票となる。

これを要するに原告主張のような不正増加票は存在しない。

原告主張の所謂幽霊票なるものは、不在者投票数を投票総数中に加算しなかつたために生じた、計算の過誤に基ずくものに過ぎないのである。

三、原告ら主張の第二の(3)について。

右(3)の主張事実は否認する。尤も、不在者投票をなす者が意外にも一時に殺到したため、係員の事務不捌きの結果帳簿の整備が多少遅れたことはあるけれども、これがため選挙の規定に違反し、選挙の結果に影響を及ぼしたことはない。

四、原告ら主張の第二の(4)について。

開票録に誤記、誤算のあつたことは認めるけれども、右(4)の主張事実は否認する。

五、原告ら主張の第二の(5)について。

右(5)の主張事実は否認する。各投票管理者は、投票立会人の面前において、選挙人が選挙人名簿に登録されている者であることを選挙人名簿と対照して(本件では抄本との対照はない)確認した後に、当該選挙人に投票用紙を交付したのである。右確認と名簿に対照の符号等を附する(例えばを附するが如き)こととは、観念上も理論上も、区別さるべきで、名簿に対照の符号をつけ落すこともあるから、これが附してないからといつて、対照確認をしなかつたとは言えない。本件選挙においては、選挙人に投票用紙を交付する際は、入場券に選挙人名簿と対照して確認した符合を附し、入場券にこの符合の存在するもののみに、投票用紙交付係において投票用紙を交付するよう指示実行させた(乙第一号証参照)。従つて、入場券に符号のないものに投票用紙を交付した事実があれば、対照確認を経ないで投票用紙を交付したと言い得るとしても、名簿にの符号がないからといつて、直ちに右の事実が存するとは言い得ない。

要するに本件選挙においては、選挙の結果に異動を及ぼすような選挙の規定に違反する事実は存しない。

(各証拠省略)

三、理  由

一、原告ら主張の第一の事実は当事者間に争がない。

二、同第二の(1)の(二)について。

成立に争のない乙第一号証の一及び当事者弁論の全趣旨によると、

本件市長と議員の同時選挙の投票所で設備された投票箱が一個であつたことは明らかであるけれども、設備が不完全であるから、市長と議員の選挙を取違えて、無効な投票をなすに至つたとの主張事実については、これに副うかのような成立に争のない甲第七三号の一から一七までの記載と証人鈴木兼男、岡本修一、松本公男の各証言及び原告本人弥永寅之助、城谷秀人、中田憲和各尋問の結果は措信しない。その他に右事実を肯認するに足る証拠はない。

三、同第二の(2)について。

選挙管理委員会及びその事務局の職員、投票管理者及び開票管理者並びに投票、開票事務に関する法定の関係者は、善良な管理者の注意義務をもつて、選挙事務に従事すべきであることは、選挙の重要性に鑑み当然のことである。しかるに、本件選挙においては、当事者弁論の全趣旨及び証人御厨和六、三浦六三郎(一、二回、同人提出の表を含む)、日比生敬一の各証言を合せ考えると、市選管においては印刷業者に注文した投票用紙が何枚納入されたかの実数を調査していないし、この投票用紙を総計三十三ケ所の投票所に配付するにあたり、配付先を誤り、あるいは配付数を正確に計算せずして配付し、受領した投票管理者においても、確実な計算をしないで受領しているため、結局は多数の投票管理者、開票管理者の責に帰すべき事由に基ずく投票録及び開票録の計算違いによる誤記と相俟つて、投票及び開票の結果を公証すべき投票録、開票録の信憑力を著しく減殺し、延いては公正明朗なるべき選挙に疑惑の念を生ぜしめ、被告から市選管に対し成立に争のない甲第二一号証の戒告を発するに至つた程であり、市選挙及び関係投票管理者並びに開票管理者としては大いに自戒反省すべきであることは、多言を要しないけれども、当事者弁論の全趣旨に、成立に争のない各開票録たる甲第五、第七、第九、第一一、第一三、第一五号証の各記載(鉛筆書きの部分を含む)、証人三浦六三郎の証言(同人提出の表)、証人小柳周一郎の証言(三回)の各一部を綜合すれば、被告らが事実摘示において陳述するような事実が認められるから(尤も右二の(六)のロの有効投票数一八、一八七とあるのは、一八、一八五の誤算であり、従つて、これに無効投票七〇二を加算すると、開票総数は一八、八八七票となる。という訳は、甲第十五号証中得票欄の末尾に鉛筆で書いてある一八、一八七は計数上の誤算で、一八、一八五の誤記でありまた、三浦証人提出の有効投票調査表のうち、第六開票所の表二枚目左欄山口明八二は、八三の、右欄宮崎左文八三は八二の、水上万作二〇二は二〇三の、各誤記であることは、右甲第十五号証の当該記載と対照することになつて明らかであるからである)、投票者総数よりも開票総数が多いとは認め難く、これに反し原告らの主張事実に照応する甲第四号証から第一六号証まで(各枝番号を附した書証を含む)、第一九、第二〇号証、第七六号証の二の各記載、証人三浦六三郎(一、二回同人提出の表を含む)、日比生敬一、池田博、小芦馨、御厨和六の各証言は措信しない。

その他に前示認定を動かす証拠はない。

四、同第二の(3)について。

仮りに右(3)のような事実があつたとしても、それは当選の効力に関する争訟の事由たり得るにとどまり、選挙の効力に関する争訟の理由とはならないから、この点に関する原告らの主張は理由がない。

五、同第二の(4)について。

右事実はこれを認むるに足る証拠がない。尤も証人高瀬幸一、野方昭三郎の各証言及び甲第十三号証の記載によると、高瀬幸一及び野方昭三郎は、第五開票所の立会人として開票管理者が点検済の投票を、有効無効に区別して、それぞれ別の封筒に入れ封印するにあたり、開票管理者とともに封印すべき責務を有する(公職選挙法施行令第七十六条参照)にかかわらず、この責務に違反して封印をなさず、また、野方昭三郎は開票録に署名すべき責務を有する(公職選挙法第七十条)にかかわらず、署名していないことが認められるけれども、右のような開票終了後における単なる手続違反のことがあつたからとて、そのことから直ちに原告ら主張のように、選挙の結果に異動を及ぼす虞があるとは解されないから、右(4)の主張は理由がない。

六、同第二の(5)について。

しかし右(5)の主張は、前示三において認定したところと抵触し支持し得ないところであり、同主張に照応する右三において排斥した証拠を除外すれば、その立論の基盤を失うばかりでなく、また、選挙人名簿に符合をつけ落したり、あるいは投票用紙の交付を受けた選挙人が、投票管理者らの監視の眼をぬすみ、投票しないで投票所から退出することもあり得ることを合せ考えると、格別の事情の瞭然としない本件においては、原告らが主張するような程の選挙の管理執行の規定違反があるとは即断し得ないから、結局右(5)の主張は採用し得ない。

六、同第二の(1)の(一)について。

市選管が昭和二十六年四月三日告示第十二号をもつて、同月二十三日に本件市長及び議員の同時選挙を行う旨告示したこと、そしてその投票の順序は、市長選挙の投票を先に行い、次に議員選挙の投票をなすことと定め、各選挙人に配付された入場券の裏面に「投票の順序は市長選挙の投票をしてから次に議員選挙の投票をなす」旨印刷したこと、しかるに、第八及び第十八投票所においては、右と異り議員選挙の投票を先に行い、次に市長選挙の投票を行つたこと、そして、第八投票所の投票管理者らは選挙人の注意により、選挙当日の午前中(証人藤村進、島野秀夫、林田進の各証言によると午前十時頃と認める。これに反する証拠は採らない)気附いたけれども、第十八投票所においては、投票管理者らがこれに気附かないで投票を終つたことはいずれも当事者間に争がない。

市長選挙と市議会議員の選挙を同時に行う場合、その投票の順序を決定する機関については、現行法上明確な規定がないけれども、公職選挙法及び同法施行令の規定を通覧すれば、同時選挙について都道府県選挙管理委員会が管理介入する場合を除いて、右は、当該市選挙管理委員会の決定すべきところであつて、投票管理者において自由に裁量決定し得ないものと解するを相当とする。証人小柳周一郎の証言(二回)によると、本件の同時選挙において、市選管は、各投票所の選挙事務担当者を招集して事務打合会を開催し、その席上で前示の投票順序を指示し、投票管理者に対し、自由裁量によりこれを変更する余地を与えなかつたことが認められる。

そして、証人新行谷十一、林田昇、伊藤甚蔵、森馨、藤村進(藤村はその一部)の各証言によると、本件選挙の啓蒙運動として、投票は市長選挙の投票を先にし、次に議員選挙の投票をなす旨を周知宣伝したことが認められ、特に遅くとも投票日の前日までには各選挙人に配付された入場券の裏面に前説示のような記載があることから、一般選挙人としては、当然市長選挙の投票を先にし、次に議員選挙の投票をなすものとの観念のもとに投票を行うのが普通である。果して、右新行谷十一、林田昇、伊藤甚蔵の各証言によると、林田昇、伊藤甚蔵、中村一良、山崎某らは、議員選挙の投票用紙に市長候補者の氏名を記載し、逆に市長選挙の投票用紙に、議員候補者の氏名を記載して結局無効な投票を行つていることが認められ、これを動かす反証はないから、敍上の認定事実から推すときは、第十八投票所で投票をなした選挙人及び第八投票所で当日の午前十時までに投票をなした選挙人(前記各証言によると、相当数の者が投票を終えていることが認められる)のうち、普通一般の選挙人のうちにも、またわけても知識教育程度の低い辛うじて仮名文字を書き得る者や老齢その他で耳遠い者の中には、右四名と等しく投票を間違えた者のあることは容易に推認し得るところである。しかるに、被告らはこの点について、(一)市長と議員の投票用紙は色分けして印刷してあること、(二)「事実」第二の一に記載するような手続の下に投票が行われること、(三)市長と議員の投票記載場所を一目瞭然たるよう記載し掲示してあること、(四)投票用紙交付係で、市長又は議員の投票用紙であることを説明して渡したこと、によつて選挙の結果に影響しないと主張するけれども、右(一)から(四)までの措置、手続は市選管が定めた通りの順序によつて投票を行う正常の投票所においても当然なさるべきところであつて、このことだけで前示の判断を否定し得べきではない。即ち(一)から(三)までの措置、手続がなされたということだけで、選挙人の悉くが投票を間違えなかつたとは解されないし、(四)の措置をとつたとしても、前に説示したように、第十八及び第八投票所の投票管理者ら自身が投票の順序を誤らせる設備をして投票を行わせていることを気附いていないのであるから、投票用紙交付係の説明だけで、選挙人の悉くが絶対に投票を間違えなかつたとは到底断定できない。そして第八投票所において、投票管理者らがその過誤に気附いた後、被告ら主張のような措置をなしたとしても、証人島野秀夫、野口源吉、新行谷十一の各証言によると、投票用紙交付係の説明を受けた選挙人の聞き違いなどで徹底しなかつた場合もあつたこと(耳遠い人にはなおさらのことである)、同投票所の設備が所定の投票順序と逆になつていることは投票する人に説明していないこと、主張の掲示記載は、漢字交りでなされ振仮名を附けなかつたため、漢字を解しない選挙人には役に立たないこと、主張の板張上の表示に気附かない者もあつたことの各事実が推認されるから、当日午前十時以後の投票を行つた選挙人のうちに、投票を間違えた者が絶対になかつたとは断言し得ないのであつて、同投票所の投票管理者であつた森馨の証言はこれを裏書するものである。敍上の各説示に反する証人藤村進、草野貞治の各証言は措信できないし、その他にこれを覆えすような証拠はない。

しかして成立に争のない甲第四号証選挙録の記載によると、本件選挙において、最下位当選人と首位落選人との得票数の差は僅かに十票に過ぎないし、当事者弁論の全趣旨と検証の結果によると、第八投票所所属の開票所である第六開票所における市長選挙投票用紙に議員候補者の氏名を記載したもの少くとも四九二票、第十八投票所所属の開票所である第四開票所において、市長選挙投票用紙に議員候補者の氏名を記載したもの少くとも六四三票存すること及び第八投票所で投票をなした有権者数は五、五〇〇名以上であり第十八投票所で投票をなした有権者数は三〇〇名以上であることが認められるから、もし、右二個の投票所で前示のような選挙の管理執行の規定に違反しなかつたとすれば、当然選挙の結果に異つた結果を生じそれに異動を及ぼす虞があるものと解すべきであり、そして、投票所別に開票をなさない本件選挙においては、第六、第四開票区における選挙を無効とする外はない。

よつて原告の請求は第六、第四開票区の選挙を無効とする限度において認容し、その余は失当であるからこれを排斥し訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十二条、第九十四条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 桑原国朝 二階信一 森亘)

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